仙台ゴーリークリニック2023は無事終了いたしました。

令和のゴールテンディング理論とスキルを考える

2つのスキル要素と5つのスキル項目

現代ゴーリーのスキルは多様です。多様なスキルを理論として説明(指導)するためには指導者ごとに視点が違い、伝え方や考え方もそれぞれです。しかしゴーリーとしての基本的な理論は優秀なゴーリーや優秀なゴーリー指導者になればなるほど大差ありません。ただ基本は変わらなくても基本的な理論の纏め方は違いがあるのは当然です。

僕はゴーリーのスキルは以下の2つのプレー要素(『ダブルエレメンツ』)に大きく分類されると考えています。

要素①:☆ソリッドプレー(SOLID)

要素②:☆リアクティブプレー(REACTIVE)

要素①のソリッドプレーとは主に『型』としてスキルを高めることのできるプレースキル。ゴーリーとして『パックを止めるため』の『準備を全力で』行う『基本を徹底』したプレーを意味します。つまりセービング前の基礎・基本要素です。このソリッドプレー(要素)は自分のプレーを『コントロール』する=『保守的な守備』という概念もあり、データやゴールテンディング理論に裏付けられたプレーの遂行を徹底した上でセービングの実行をすることで高い確率でセーブすることができることを意味します。簡単に言うとケベックスタイルを限界まで追及した上でのゴールテンディングと説明すると理解しやすいゴーリーや指導者も多いのかもしれません。以下の3つの『スキル項目』から成り立ちます。

・トラッキングスキル

・ポジショニング

・各種姿勢

要素②のリアクティブプレーとは『シューター(敵)との対戦』でスキルを高めることができるプレーです。主にゴーリーの目的である『パックを止める』=『セービング』のプレーを指します。このリアクティブプレーはソリッドプレーを徹底した上で積極的な守備と反応を駆使するということを忘れてはいけません。リアクティブプレーだけを重視してもセーブの確率を上げることはできませんが、一方でソリッドプレーだけではセーブの確率を上げることは現代ホッケーではできないのです。現代ホッケーの高いレベルでのスコアリングに対抗するためのゴールテンディングを実践するためには、ソリッドプレーの完成度を高めた上でリアクティブプレーを追求することが質の高いゴールテンディングを実践する近道です。このリアクティブプレーのスキル項目には以下の2つがあります。

・セービングスキル

・リカバリー

さて、上記の説明の通り2つのプレー要素(『ダブルエレメンツ』)にはソリッドプレーを中心にリアクティブプレーの要素を取り入れ、組み合わせる(繋ぐ)ことで現代(令和)のゴールテンディングを実現することができます。ソリッドプレーには3つのスキル項目が存在し、リアクティブプレーには2つのスキル項目がある事からも理解できる通り、ゴーリーのプレーの大半を占めているのはソリッドプレーであることは言うまでもありません。繰り返しになりますが、それでも現代ホッケーにはリアクティブプレーのスキル項目が重要視されている。それは一重にプレーヤーのスコアリングスキルの進化やホッケー用具の進化でこれまでにない程のレベルでアイスホッケーが進化していると言えます。それでは、次の章では2つのスキル要素(ダブルエレメンツ)はどのように繋がれているのかを考えていきます。

2つのスキル要素を繋ぐ能力

上記の2つのスキル要素(ダブルエレメンツ)であるソリッドプレーとリアクティブプレー。この2つのプレーには合計して5つのスキル項目があることは前述した通りです。では、2つのスキル要素は何によって繋がれているのか?何か繋ぐ役割のもう一つのスキル(能力)が必要になります。

僕は2つのスキル要素を繋ぐ役割を担っているのは『コーディネーション能力』だと考えています。『コーディネーション』とは様々な運動能力を組み合わせることができる身体的な能力です。この『コーディネーション能力』を理論的に『繋ぐ役割』と位置付けることで以下のような図を仮定します。

◇コーディネーション能力でソリッドプレー(要素)とリアクティブプレー(要素)の『ダブルエレメンツ』を連動させることで2つのプレー要素を繋ぐチェーンの役割を担います。上記の通り『コーディネーション』には幾つもの身体的な能力や筋力の項目があり、これらはオンアイス(氷上練習)・オフアイス(陸上練習)の両面で総合的に鍛える必要がある項目です。コーディネーション能力は近年のジュニア世代のゴーリーを見ていて乏しく感じる部分が多くあります。アイスホッケーに限らず、様々な運動やスポーツに触れる機会が少なかった近年(コロナ禍)の影響もあるとは思いますが、あらゆる工夫とトレーニングで身につけることのできる能力なので高めておくことでゴーリーとしての総合能力は確実に上がります。

令和版ゴールテンディングシステムを考える

ここまで説明した通りゴーリーには2つのスキル要素(ソリッドプレー・リアクティブプレー)=『ダブルエレメンツ』と合計して5つのスキル項目(トラッキングスキル・ポジショニング・各種姿勢=ソリッドプレー要素 / セービングスキル・リカバリー=リアクティブプレー要素)が存在し、これらを連動させる役割を担う『コーディネーション能力』があることは前述した通りです。

ゴーリー理論(ゴールテンディング)を実際のプレーで発揮するためにはゴールテンディングシステムに当てはめる必要があります。システム化できなければ実際のプレーでは使うことができません。そこでここからは、これまで説明したスキル要素とスキル項目をゴールテンディングシステムに当てはめ、以下で考えていきます。

上記の図のようにシステム化することで1つのゴールテンディングシステムが完成します。

青色で塗られているスキル項目(☆)はソリッドプレーの要素です。赤色で塗られているスキル項目(☆)はリアクティブプレーの要素。さらに繋がれている緑色の円はコーディネーション能力を意味します。これらを理解した上で、ゴールテンディングシステムの中心にはソリッドプレー要素の『トラッキングスキル』の項目が位置付けられています。

ゴールテンディングの基本はやはりソリッドプレー要素の『トラッキングスキル』であることは間違いありません。「パックを見る / 見続ける=追跡視」・「周囲の味方や敵のポゼッション(位置の把握)=周辺視』・「パックが次に動く位置を予測 / 読む /察知=リレーション』→これらの『テクニック』が『トラッキングスキル』を意味します。

トラッキングスキルを磨くことで素早くプレーの状況を把握することができます。シュートがある(危険な)シチュエーションなのか?シュートがない(危険度の低い)シチュエーションなのか?把握することができるでしょう。5つのプレー項目がある中で『トラッキングスキル』が中心にあり、すべての矢印(銀色)と繋がっているのは、常にそれぞれの項目の間には『トラッキングスキル』が存在するからなのです。

『トラッキングスキル』でパックの位置を把握する=状況を把握することができたら次に行うべきソリッドプレー要素のスキル項目は2つです。

1つは『ポジショニング』。これは「正対・静止 / デプスコントロール / スケーティング / ポストプレー (3ポジション)」のテクニックがポジショニングの項目では該当します。ポジショニングスキルはゴーリーにとって言わば基本中の基本です。すべての土台を支えていると言ってもいいと考えています。ポジショニングの中のテクニックは全てで4つ存在しポジショニングスキル(項目)を形成しています。知識としてどの位置にパックがあればポジショニングをどの位置に開始しなくてはいけないのか?これらを理解することも大切です。

もう一つは『各種姿勢』。各種姿勢のスキル項目は「基本姿勢 / BOXコントロール / ポストの姿勢 / バタフライスタンス / OPD / RVH」のテクニックで構成されます。これらのテクニックをプレーの状況下で瞬時に必要な姿勢に切り替えることが重要です。

上記の3つのソリッドプレー要素を組み合わせ、それぞれのスキル項目・テクニックの個々のレベルを上げることでソリッドプレー要素の質は高まります。ソリッドプレー要素の質が高まることで高い基準のプレーが可能になり結果的に余裕のあるプレーを実践することにも繋がります。

次に赤色で塗られている(☆)リアクティブプレー要素のスキル項目に視点を向けてみましょう。リアクティブプレー要素は2つのスキル項目で構成されています。リアクティブプレー要素を考える上で忘れてはいけないのが、前述でも触れた通り高い基準のソリッドプレー要素のスキル項目がある上でのリアクティブプレー要素になるということです。

1つ目は『セービングスキル』のスキル項目。「バタフライセーブ / バタフライブロック / リバウンドコントロール / アクティブハンド / OPD / RVH」のテクニックで構成されます。徹底したソリッドプレーを追求した上でのセービングを『セービングスキル』のテクニックを使い実践します。『セービングスキル』項目において、一番重要な概念はソリッドプレーとリアクティブプレーの2つの要素が『セービングスキル』項目には混在している点です。ソリッドプレー要素としての『セービングスキル』も存在しますが、現代ホッケーの複雑で高度なスコアリングへ対抗するには限界があります。リアクティブプレー要素としての『セービングスキル』を持つ合わせることでソリッドプレーでは補えない部分も補えうことができます。

リアクティブプレー要素の2つ目は『リカバリー』のスキル項目です。「フォロー / フリーズ / ボディートラップ / スティックコントロール」のテクニックで構成されます。主にシュート後(セーブ後)の動作全般です。セーブ後に素早くリバウンドパックやルールパックなどプレーが展開されている方向へプレーを継続する=フォロー動作をはじめ、フリーズやボディートラップのように試合をゴーリーが一時的に中断させる(ホイッスルを取る)プレーも『リカバリー』のスキル項目に当てはまります。

これまで説明した『2つのスキル要素=ダブルエレメンツ』と『5つのスキル項目』の中に存在する、いくつものテクニックをゴーリーはそれぞれのプレーモデル(プレー内容や展開)に合わせプレーを組み立てるポジションです。これらの『スキル』と『テクニック』をゴールテンディングシステムとしてのプレーで組み立てることができるゴーリーが優秀なゴーリーと位置付けることができると思います。

ゴールテンディングの向上とは?

それでは、ゴーリーとしてのレベルを上げるためには具体的に何を伸ばせばいいのか?これはゴーリーの永遠(それぞれの時代)の議題なのかもしれません。

上記のように『ゴーリーの総合能力』をピラミッド図に仮定して考えてみます。まず前述した通り、ゴールテンディングとは『ソリリッドプレーの要素』と『リアクティブプレーの要素』、この2つの要素=『ダブルエレメンツ』が連動(コーディネーション)して成り立つことはここまでの解説の通りです。そのため、ピラミッド図の土台になる部分とピラミッド図の外枠には『コーディネーション』能力(緑塗り)がゴーリーの専門スキルを囲います。

次にゴーリーの専門的プレーの視点で土台となる部分はやはりソリッドプレー要素(青塗り)です。ソリッドプレー要素の3つのスキル項目内のテクニックをクローズドスキル(個々のタイミングや決まったシチュエーション下)で精度高く使いこなすことができればプレーの幅は広がります(プレーに余裕が生まれる)。

ピラミッドの頂点に位置するゴーリーの専門的プレーはリアクティブプレー要素(赤塗り)になります。ソリッドプレーの土台の幅を徹底的に広げることでリアクティブプレーの重要性と精度が高まります。リアクティブプレー要素のスキル項目とそのテクニックは精度の高いクローズドスキルとしてプレーできることが基本となり、重要なのは『ダブルエレメンツ』のスキル項目とそのテクニックをオープンスキル(対戦相手の工夫や対戦相手のタイミングに合わせるプレー=試合や練習内での対人シチュエーションにおいてスキル・テクニックを発揮する能力)で発揮できることが求められます。オープンスキルでの発揮にはクローズドスキルでの高い精度と試合や練習での失敗と修正を経て得ることのできるプレーへの『感覚』=『経験値』とそれに伴う『ホッケーIQ』を養うことがオープンスキルの習得には欠かせません。

結論としてはゴーリーの『ダブルエレメンツ』(ソリッドプレーとリアクティブプレー)の要素を「クローズドスキル」と「オープンスキル」という2つの運動技法(運動スキル)の視点で日々の練習を取り組むことでピラミッド図(『ゴーリーの総合能力』)を大きくすることができると考えています。

誤解をしてほしくないのはゴーリーというポジションはこれまで説明したことを習得することで能力(レベル)が上がる=上達するということではありません。これまで説明したことはあくまでもゴーリーとしての「スキル項目・能力」を上げるための考えです。上記の『ダブルエレメンツ』の他にも重要視される要素や項目は多数あります。今回は「ゴールテンディングスキル理論」として「スキル部門」に特化した視点で考えてみましたが、他にもゴーリーとして必須な「要素」や「スキル項目」は多数あると考えています。例えば、『メンタル!』と呼ばれる部分。これも大切な「スキル」だと考えています。僕はこの部分を「マインド(セット)」と位置付けていますが、ゴーリーにとって必須事項の一つであることは間違いありません。

今後「マインドセット」についてもコラムで触れていこうと思います。

@55oalie – Michikazu HATA

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